5%条項で足きりされるドイツの政党。その導入の暗い歴史的背景とは?
ドイツと日本は、もちろん政治の制度もちがいますから、選挙制度のちがいもあります。今回はドイツの選挙制度の中でも日本にはない概念、「5%条項」について書きたいと思います。
5%条項って知ってますか?
5%条項って知っていますか? 多くの人は知らないんじゃないかと思います。
5%条項というのは、いわば足きりです。ドイツにも比例代表制があるのですが、比例選挙で5%以上を票を獲得するか、小選挙区で3人以上の当選者を出すことができなければ、その政党の議席はなしとなる条項のことです。
比例代表制のワナ
2015年12月24日時点の日本の衆参議院の717議席の様子をみてみると、407席が自民党です。過半数越えの第一党です。逆に議席が少ない政党をみてみると、社民党、生活の党、日本を元気にする会が5議席、日本のこころを大切にする党が4議席、新党改革が1議席となっていました。(参考:Yahoo! Japan みんなの政治)
正直なところ、社民党は知っているんですが、それ以外はあんまり聞いたことがないなぁ……というのが本音です。政党として自分の意思を示したいのはわかるんですが、たとえば議席が1つしかないなら、無所属でもいいんじゃないかと思います。とはいえ、日本は少数政党がそこまで多くはないですよね。5議席以下でも5つの政党しかありませんし。
では、ドイツはどうでしょうか。
当時ワイマール共和国という名だったドイツでは、1919年のワイマール憲法の制定とともに、完全比例代表制の導入をきめました。
比例代表制というのは本来、死票がなくせるという利点があります。小選挙区で当選枠が1つ、立候補者が2人だとしましょう。49:51で決着がついたら、49%の国民の意見が議会に反映されないこととなります。その点比例代表制では、20%の票を獲得した政党が5つあったとしたら、5つの政党すべてに平等に議席を振り分けられます。そうすると、小選挙区のように国民の意見が無視される、という事態を防ぐことができます。
こう聞くと、とても優れた制度に思えますよね。では、比例代表制だけで選挙を行ったワイマール共和国の結果はどうだったのでしょうか。
まず、得票数によって議席が振り分けられるので、総票数によって総議席が変わります。ざっくりとした例でいえば、選挙で投票する人が半分になれば、議席が半分になるようなものです。なんだか想像できませんね。
そして死票を減らす制度であるがゆえに、政党乱立、という結果をまねきました。たとえば1%しか得票数のなかった政党が10あったとしたら、ワイマール共和国の制度では、10の政党すべてに議席がいきます。それを繰り返せば、政党乱立という結果になるのも理解できますよね。
政党乱立の混乱
政党乱立によって危機に陥ったワイマール共和国。なにが危機かというと、そもそも1党だけで過半数がとれるわけがないんですね。となれば、常に小政党と連立を組まなくてはいけない。そうすれば意思決定がうまくいかない。かといって「もっとも民主的」と言われたワイマール憲法で定められている選挙で議席を獲得したから、減らすこともできない。制度を変えようと話し合うも、いろいろな政党があって混乱、制度は変わらず。泥沼です。政治基盤はボロボロです。
そしてワイマール憲法には、もう1つ「盲点」がありました。
ワイマール憲法では、大統領の緊急決定権が認められていました。秩序維持のためには武力行使、また基本的人権の一部停止などが許されるという大統領の権利です。議会がうまく機能しないため、大統領が主導して政治を動かしていく風潮へ変わっていきます。ヒンデンブルク大統領はこれを連発、国会を差し置いて大統領中心内閣を組閣。そんなことが許されてしまう権利だったのです。
この2つの憲法上の欠陥がもたらしたものは、混乱と独裁です。
政党が乱立したことにより円滑な議論は不可能、それをまとめて引っ張ってくれるカリスマ性のある人物が求められるようになります。そこで登場したのが、アドルフ・ヒトラー。1931年、ナチ党はついに第一党に躍り出ます。ヒトラーは大統領であったヒンデンブルクの権力を利用し、一時的に基本的人権の停止に至りました。
比例選挙で政党乱立→混乱→大統領が権力行使→混乱に乗じてナチス台頭→第2次世界大戦へ、という流れです。
ワイマール憲法といえば、男女普通選挙や労働者の団結権などを認めた、当時の最先端の民主主義を具現化したものでした。ですが万事がうまくいく、というわけではなかったようで、その実は大きな混乱をもたらしたのでした。
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政治音痴の私でもよく分かった!
今ドイツでの「ドイツのための選択肢」(AfD)の躍進が、何を意味しているのか考えさせられますね。
CDUが苦戦する中でAfD「ドイツのための選択肢」の動向が気になりますね。とても勉強になる記事です。筆者のブログも面白いのでおすすめです。