運用は不可能?ドイツにおけるベーシックインカム導入の是非
2016年6月に、スイスにおいてベーシックインカム導入の是非を問う国民投票が行われることが先日決定した。国民投票が可決されれば、スイスは世界で初めてベーシックインカムを制度化する国となり、ベーシックインカム導入論が活発に行われている他国にとっても導入の是非がより一層本格的に議論されることとなるだろう。
ドイツにおけるベーシックインカムに関する議論
ベーシックインカムの概要としては、今回スイスで導入が検討されているように、成人している全国民に対して日本円で毎月30万円程度、未成年に対しても日本円で毎月8万円程度を無条件で給付し、その代わりに一部の健康保険や生活保護制度などを廃止してベーシックインカムに一本化する、という形式が基本線となっている。
ベーシックインカムは国民に対して最低限の所得の保障を行うというだけでなく、行政側にとっても社会保障制度をほとんど一本化できることから、事務手続きの効率化を進めることができ、大幅なコストカットを行うことができるという側面も持っている。行政の効率化、財政の健全化を目指すうえでも有用な制度であるという声も多い。
現状、ドイツでも他のEU諸国同様、ベーシックインカム導入の是非について様々な議論がなされている。実際に、ベルリンでは民間レベルでクラウドファンディングを利用してベーシックインカムの導入実験を行う動きもあり、ドイツでも制度実現への追い風が吹き始めているのが現状だ。
導入を支持する政党、導入に対しての主な意見
ドイツにおいてベーシックインカム導入を強く支持している政党はいくつかあるが、連邦議会に議席を有している政党に限ってみると、野党である「左翼党」「同盟90/緑の党」が制度導入を主張し続けている。
上記のように、この2政党の連邦議会における議席数は20%あまりにも上り、メルケル政権にとっても決して無視することはできない勢力となっている。今後のベーシックインカム導入論の盛り上がりを受けて、これらの政党の支持はさらに伸長する可能性もあり、メルケル政権にとっても制度導入の是非は今後数年間にわたって最重要課題のひとつとなるだろう。
ベーシックインカムは政府レベル、民間レベルの様々な場面で議論が行われているが、肯定派、否定派の理由に関してはおおむねどのレベルであっても同じようなことが話し合われている。
肯定派による意見
肯定派の主な意見としては主要なファクターである貧困対策の増進はもちろんのこと、未成年者に対しても給付が行われるということから少子化対策への期待が持てるという点や、年金や生活保護制度のような所得制限がないことから働けば働いた分だけ豊かになるという点で労働意欲の向上になるという点、さらにはこれらの要因が長期的に見れば景気回復、景気の刺激へと結びついてゆくという点が挙げられている。
また、昨今のドイツの労働市場において深刻な問題となっている非正規雇用対策としても、ベーシックインカム導入は効果的であると肯定派は主張する。単純にベーシックインカムによって低所得者の経済状態が是正されるという部分以外にも、正社員に比べて税収の減免措置を受けづらいという点を解消する役割も果たせるというのだ。
もしこの論理どおりであれば、近年比較的好調なドイツ経済のアキレス腱になりかねない労働市場における非正規雇用の増加という問題を一手に解決することが可能になる。
否定派による意見
これらの肯定派による、いささか楽観的とも言える予測と展望に反して、否定派によるロジックは極めて現実的かつ冷ややかだ。
否定派の多くは、ベーシックインカムによって社会保障が一本化することに対して警鐘を鳴らしている。ベーシックインカムの給付額以上の社会保障がなくなってしまうため、より困窮している人に対しての更なる公的扶助を行うことは難しくなってしまい、結果的に社会保障水準は現在より低下するのではないかという声もある。
また、ベーシックインカムの資金が国内外の反社会的勢力に流れてしまうのではないかという危惧も根強い。特に現在、EU全体がイスラム国による脅威にさらされている中でベーシックインカムを導入してしまうと、国外に資金が流れて結果的に資金援助を行うことになってしまう可能性が指摘されている。
より精神論的な観点からの批判もある。伝統的に勤勉性が売りのドイツ人が、ベーシックインカムを手にすることによって堕落し、勤労意欲を失って持ち味の勤勉性を手放してしまうことになるのではないかということも議論されているのだ。
最大の問題は「財源の確保」
このような様々な批判の中でも、最も現実的かつ必ず乗り越えなければならない問題が「恒久的な財源をどう確保していくのか」という問題である。
この点に関して、スイスは財源のうち4分の3を税金で、残りの4分の1をベーシックインカム導入によって削減された社会保障費からまかなうとしている。しかしながら、スイスの10倍以上の人口を抱えるドイツで、同じような方程式がまかり通るかは不透明だ。
さらに、財源のうち大部分を税金でまかなうというプランに関しても懐疑的な目が向けられている。財源に関しては現状の税収から想定されるものであるから、今後税収が減ってしまった場合、さらに仮にベーシックインカムによって産業構造が転換した際に、同じ水準でのベーシックインカム給付を続けられるのかという疑問が生じてくるのだ。
また、ベーシックインカム導入によって仮に労働者が減ってしまったとすると、今までどおりの経済の基盤を維持することはかなり難しくなってしまうことから、ドイツ全体の国力が低下してしまう可能性もある。もしそのような状況が生まれてしまうと、当然ベーシックインカムの財源を確保することは難しくなり、制度を恒久的に続けていくことは不可能になってしまうだろう。
ベーシックインカムは現実的に導入可能なのか
ベーシックインカムはこのように、今後数年以内であれば実現可能であり、貧困や雇用、景気の刺激といった様々な部分に好影響をもたらす可能性を含んでいるものの、より長期的、恒久的に制度を運用していくうえでは様々な障壁が存在しており制度運用は難しいと言わざるを得ないだろう。
導入が現実味を帯びているスイスでも、税金が運用資金の大半を占めていることと、将来的に税金が上がってしまう可能性の高いことに関しては賛成派からも根強い批判がある。運用する側が恒久的な政策モデルを提示できない以上、ベーシックインカムは導入しても破綻するリスクを常に背負っている状況になってしまうのは明白だ。
ドイツでのベーシックインカム導入に際しては、より長期的に運用できるモデルを考え、税金だけに頼らない仕組みを作っていくことが出来なければ、仮に導入したとしても早晩崩壊してしまうのは目に見えていると言えるだろう。税金、社会保障費の縮小だけに留まらない、第三の財源に関する検討が急務なのではないだろうか。

ベーシクインカム制度がいまいちよくわからないんですけど、記事の説明を読む分にはつまり、30万程度を毎月もらえるけど、健康保険・生活保護の一部が廃止。てことは、30万から健康保険を引かれるってこと?!所得税も?未成年の場合は子供給付金とは別に8万?障害者手当てはそのまま? そしてもし税金が引き上げられたら?万が一に備えてちょっと勉強しとかないと!!