パン屋のレシートで貧しい者を救う。心温まるミュンヘンでの貧困者支援

他の客が代金を支払ったパンを貧しい人たちが受け取る。一杯のコーヒーを飲むために、二杯分の代金を支払う。コーヒーの力で、貧しい人たちの胃も心も温める。他の客が代金を支払ったパンを貧しい人たちが受け取る。そんな活動が今、ミュンヘンで行われている。

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パンやコーヒーを寄付する

地域の人々の集い場であるカフェのドアを、全ての人に開いてあげたい。誰もが快適にくつろげる空間にしたい。毎日のパンにさえも困っている貧しい人々も例外なく、誰もが快適にくつろげる空間にしたい。ミュンヘンでパン屋を営むノイリンガー氏は、こういった思いで“Brot am Haken”という活動を立ち上げた。

Hakenとはドイツ語で「掛け釘、ホック」という意味である。ミュンヘンにある15のパン屋では、レジの隣にホックが取り付けられている。貧しい人たちに何か寄付したいという客は、レジでお金を支払ってそのレシートをこのホックに掛ける。寄付する物として何を選ぶかは、本人の自由である。

ノイリンガー氏の店のホックに掛かるレシートには、カプチーノ、パン一斤、ブレーツェル、クロワッサンなどの文字が並ぶ。貧しい人たちは、これらのうちから好きなものを取り、実際にパンやコーヒーと交換してもらうことができる。

ナポリでは100年の歴史を持つ伝統

一杯のエスプレッソが人々の生活の大切な一部をなすナポリで、100年以上の歴史を持つ伝統がある。カフェでエスプレッソを注文するとき一杯分余計に代金を支払う、というものだ。お金の余裕がない人たちのための一杯である。

ナポリ発祥のこの伝統を元に、ミュンヘンでも同士が集まり、2015年3月に“Brot am Haken”を立ち上げた。それ以来彼らは、ミュンヘンでもパンの寄付を広めようと奮闘している。ミュンヘンは豊かな都市ではあるが、それでも貧しい人の数は少ないとはいえない。

この活動を立ち上げた理由を、メンバーの一人はこう語る。「パンは、栄養の基本です。なぜ人がパンを求めるか、説明する必要はないでしょう。でも、飢えを満たすことが私たちの目的ではありません。人々に喜びを与え、人と人との間の壁をなくしたいんです。」

彼らの活動によって救われるのは、年金受給者や片親、ホームレスなど、日々の生活費にもあくせくしている人たちである。多くの人は、なんとか生活していける程度のお金は持っている。しかし、質の良いパンや美味しいケーキを買う余裕がない人もいる。

貧しさを証明する必要はない

ホックからレシートを取る人が本当にお金に困っているのかどうか、簡単に判断することはできない。ある日突然職を失い、路頭にさまようことになってしまう人もいる。そのため、客が貧しいかどうかを店員が判断することはなく、お金に困っていると自ら感じている人は誰でも、無料のパンやコーヒーを受け取れる。

このささやかな寄付活動に貢献しているのは、性別問わず様々な人たちだ。では、暖かいコーヒーを求めてやってくるのはどんな人だろう?あるカフェの主人はこう語る。「お客さまが貧乏であるかどうかを確かめたりはしません。一人で子どもを育てる母親や、何かの事件に巻き込まれた被害者、ホームレスの方などがお客さまとしていらっしゃることもあります。」対象を絞ることも、貧困を証明させることも、考えてはいない。ホームレスもここでは客として暖かく迎え入れられる。

パンを受け取るときの気後れ

しかし人は、何かを無料で手にすることにためらってしまうものだ。レシートが、何日経ってもホックに掛かったままになっていることもあるという。寄付をいとわない人は少なくないが、まずこの活動自体が人々の間で広まる必要がある。とくに、寄付を受け取る側の人々の間での認知度が上がらないことには効果は薄い。

“Brot am Haken”の参加メンバーたちは町中でビラを配り、その際貧しい人にも積極的に声をかける、普及活動に努めている。また、店に入らなくても通りから人の目に入る場所にホックを取り付けることで、ためらう人々の背中を押してあげることが大切だろう。

パン屋側にも利点がある

この活動に参加することで、パン屋にも利益がある。売り上げが増えることは言うまでもないだろう。しかし同時にリスクも負わなければならず、すでに苦情が出ているのも事実である。誰かの寄付のおかげでようやく朝食にありつける貧しい客の中には、決して清潔とはいえないような人もいる。そういった人々を避けるように、店に立ち寄らなくなった元常連客もいるという。

また、大規模にチェーン展開しているパン屋にとっても、この活動への参加は難しい。コンピュータで管理するレジは、パンが代金の支払われた日ではなく数日後になってようやく客の手に渡る、という状況を呑み込めないのである。

そのため、現在“Brot am Haken”に参加しているのは、個人経営の小さなパン屋のみである。ここでもう一つの問題が浮かび上がる。参加している店の多くは、ミュンヘンの中でもいわゆる高級街区にあるのだ。比較的貧しい人々が暮らす地区には、今のところホックは一つも見当たらない。

記念すべきレシート第一号を寄付したのは、小さな子どもであった。一生懸命貯めたお小遣いを握りしめてやってきたという。それから毎日、誰かがレシートを取りに来ていないかを見るためにパン屋に通ったそうだ。

 
地域のカフェやパン屋というのは、ドイツでは地元の人が集まる場だ。誰かが寄付した焼きたてのパンや暖かいコーヒーは、貧しくて、お金がない人の心の底まで温めることだろう。

この活動が今後広まっていったとき、パンやコーヒーを受け取れる際の基準がないのは、たしかに問題になるかもしれない。かといって、貧しいことの証明を求めるのもどうかと思う。
 
解決するべき点はあるが、「誰もに開かれた場所をつくり、地域の人々を結びつける」という目的を見失わずに、発展を遂げていくことを期待したい。今後、筆者がこの活動に参加するカフェやパン屋を訪れることがあれば、その場にいない誰かのために、コーヒーを一杯ご馳走したい。そして、その後も数日間は同じ店に通うことになるかもしれない。

参考記事:
Brot für Bedürftige: So geht’s jetzt ganz einfach

この記事へのコメント 2

  •  のプロフィール写真 okoni より:

    心温まる試みですね。様々な考え方があるでしょうし、やむなく店を離れた常連の方々の気持ちもわかります。しかしこの活動が廃れることなく、細々とでも良いので続いていってほしいと思います。

    4
  • Zenn のプロフィール写真 Zenn より:

    この話は現代の童話ですね。これに似た話は世界各国で宗教の違いに関わらずあるような気がします。難民が押し寄せるドイツで、この話が続いてくれればいいなと思います。(コメントがないようなので、紹介ついでにコメントします)

    2

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tomo のプロフィール写真
1992年高知県生まれ。愛知県立大学外国語学部を卒業し、専攻したドイツ語を生かしたいと思い到り、渡独。 現在ドイツのフランクフルトに在住、スポーツ関係のベンチャー企業でのインターンシップに参加している。翻訳者として一語一語丁寧に、ライターとして読者に新たな気づきを与えることを心がけ、執筆活動に取り組む。


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