ドイツの財政黒字はどのようにして達成されたのか?

スポンサーリンク

ドイツが2016年も引き続き財政均衡を達成する可能性

先ごろ、2015年のドイツの財政収支が発表され、ドイツの財政黒字が約121億ユーロにも上ったことが明らかになった。政府による当初の財政黒字予想は約61億ユーロであり、当初の予想からほぼ倍額の財政黒字が達成されることになった。このことから、ドイツは2016年も引き続き財政均衡を達成し、財政黒字の計上を達成できるのではないかといういささか楽観的な見方も広がっている。

ドイツが財政黒字を達成するまでには様々な障壁があり、それらを乗り越えるために堅実な施策が行われてきたことは以前の記事でお伝えしているとおりだ。施策に関してはシュレーダー政権下で行われたものが多く、財政健全化のベースはシュレーダー首相時代に築かれた部分が大きいと言えるだろう。

しかしもちろん、現政権のメルケル首相がなんら財政に関して進歩的な施策を打ち出していないわけではない。特に、2008年に端を発したリーマンショックによる財政収支の悪化という国家財政を襲った未曽有の大災害をドイツが乗り越え、さらに2010年のギリシャ財政破綻が引き金となったユーロ危機にもEUを代表して立ち向かうことが出来たのは、メルケル政権下で継続的かつ持続可能な施策がとられたことによるところが大きいだろう。

これほどまでに健全な財政均衡を、しかも継続的に達成することが出来ているドイツ。メルケル政権は、財政健全化のために果たしてどのような施策を行い、リーマンショックに対してどのように立ち向かったのだろうか。

メルケル政権が「シュレーダーの方法論」を踏襲した部分はどこなのか

少なくとも先進国に限ってみると、ドイツの財政の健全ぶりは特筆すべきものがある。以下に示したように、2014年の財政収支で見るとドイツの財政の健全度はG8、さらには経済発展著しい中国やインドと比較しても際立って良いことが分かる。

経緯をよく知らない者にとっては、もはや魔法か何かによるものにも思えるドイツの健全な財政。しかしドイツの財政の現状は魔術でも神通力でもなく、シュレーダー政権下からの堅実な努力のたまものであることは以前お伝えしたとおりだ。

シュレーダー政権下における財政の主な施策方針は「所得税・法人税の減税による景気の刺激」「雇用の流動化に伴う労働市場の拡大」の2点である。このうち、後者の「雇用の流動化に伴う労働市場の拡大」は短期的にみれば失業者を増やすことになってしまい、シュレーダー政権には激しい批判が浴びせられた。しかし、長期的に見れば両者とも景気を存分に刺激するものとなり、結果的に財政にもダイレクトに好影響が表れることとなった。

メルケル政権は、このシュレーダー政権下における施策を基本的には踏襲しており、前者の減税施策に関してはリーマンショックなどの影響もあり多少増税を行う期間はあったものの、低い水準を維持する努力を行っていると言える。後者の雇用流動化と労働市場拡大についても同様であり、景気の刺激を継続的に行って経済の鈍化を防ぐ役割を果たしていると言える。

メルケル政権が打ち出した「新たなる方法論」とは

「シュレーダーの方法論」を上手く踏襲し、生まれ始めた良いスパイラルを切ることのなかったメルケル政権。そのスパイラルをさらに強固にしたのは、メルケル政権が打ち出した「新たなる方法論」だろう。

メルケル政権が財政健全化のために打ち出した施策は、至極単純かつ明快なものであった。メルケル政権は成立当初から「緊縮財政」を志向して、より財政健全化への道筋を明確にしたのである。

メルケル政権が「緊縮財政」を志向する理由には、明確な財政健全化の道筋を示すというもの以外にも、将来世代への負担のしわ寄せを減らすという側面もある。他の先進諸国同様、ドイツもまた近い将来、人口減少社会を迎える。その中で、次世代に国家財政が負債を作り出してしまうような事態を避けるべく、財政の緊縮化が行われているという一面も持っているのだ。この流れは今後もしばらく継続することが予想されており、事実メルケル政権は、2016年以降の連邦予算における赤字がGDPの0.35%を超えないようにするという事項を法制化し、将来的にも「緊縮財政」を続けていくというスタンスを表明している。

しかし、この分かりやすい施策に関して、諸外国からの批判があることもまた事実だ。特に自国の財政状況が悪化しているポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシャなどの国々は、ドイツの施策はEU全体に対しての配慮がなく、EU各国の景気を刺激するためにもドイツには景気刺激策を望むというメッセージを送り続けているが、メルケル政権が方針を転換する予定は今のところないと考えられている。

リーマンショックの惨禍をドイツはどう乗り切ったのか

このように、財政に関して堅実な施策を取り続けてきたドイツ。とはいえ2008年から2009年にかけてのリーマンショックは、健全化の道を辿っていたドイツ財政にとってはまさに冷や水を浴びせられたような出来事であったと言えるだろう。

しかし、下記のようにドイツの財政はこれらの惨禍から一旦ダメージを受けたものの、見事に立ち直ることが出来た。なぜドイツの財政はこれほどまでに健全な状態を維持することが出来たのだろうか。

リーマンショックに関していえば、ユーロ安による輸出の伸長という嬉しい誤算があったためという部分は否定できない。しかしながら、ドイツが長らく行ってきた「労働市場の拡大」という部分と、メルケル政権が強固に打ち出す「緊縮財政」がリーマンショックの傷跡を早期にふさいだ要因の一つであることは疑いの余地がないであろう。

ドイツでは「労働市場の拡大」が出来ていたために、リーマンショック以後も失業者がそれほど増加せずに済んだ。それは拡大した労働市場自身が、職を失ってしまった人に対するセーフティネットとして機能したからに他ならない。加えて長らく続けている「緊縮財政」が国家の余分な支出を抑えることとなったために、ドイツの財政状況が極端に悪化することはなかったのである。

ギリシャ財政破綻、ユーロ危機に関しては火種が残ったまま

このように、リーマンショックによる打撃を最小限に抑えたドイツは、EU諸国にとってのフラッグシップとして存立することとなった。その結果、2010年に財政破綻したギリシャに多額の財政支援を行うという役目を負わされることにもなったが、それでもドイツは財政状況を悪化させることなく今日まで来ている。

しかし、ギリシャ財政破綻に端を発するユーロ危機は、まだ尾を引いているのが現状だ。特に、メルケル政権がギリシャに対して強硬な姿勢を示し続けていることや、ユーロ危機がまだくすぶり続けている現在でもなお「緊縮財政」を続けているEU各国からの批判は根強くなっている。

長期的に見れば、EU諸国のフラッグシップとなったドイツ自身が、EU崩壊の引き金を引くことになるのではないかという悲観論も噴出し始めている。ドイツがこのままギリシャに対して強硬策を取り続けることで、ギリシャがEUを離脱してしまう、さらにはデフォルト(債務不履行)に陥ってしまう危険性もあり、仮にそうなってしまうとギリシャへの財政支援額の多いドイツ経済には多大なる影響が及ぶ。そうなった際に、ドイツ経済は死に体となりEU全体に影響が及んでしまうのは明白だ。

EUをリードする存在となったドイツが、いかようにEU全体を考えた財政上の舵を切るのか。メルケル政権の次の一手は、EUの未来を占うものになる可能性をはらんでいる。

感想・意見をみんなと共有しよう!!

文蔵 一郎 のプロフィール写真
1989年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後、官公庁に入庁し2年ほど実務を経験する。在職中に一念発起しフリーライターとして独立することを決意。退職後「元公務員ライター」として2016年から独立。大学時代から国際政治を専攻しており、幅広い見地と視野から国内外の政治経済の動向を見定められるよう奮闘している。


関連記事

このページの先頭へ

Social Media Auto Publish Powered By : XYZScripts.com
ツールバーへスキップ