EU離脱に潜む「他者の統治」への拒絶

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EUという挑戦

もともとEUは、ドイツの勢力を抑え込むためにはじまった取り決まりがはじまりでした。それが「平和のために」という大義名分のもと、経済、政治、その他多くの分野での協力と共闘への道のりを歩みました。

前ロンドン市長で、EU離脱の中心的存在であったボリス・ジョンソン氏は、「ヨーロッパはあらゆる方法で、平和と安寧によるローマ帝国の黄金時代を再現しようとした。ナポレオンやヒトラーなどの人々が試みたものの、すべて悲劇に終わった。EUは、それをちがう方法で実現しようとする挑戦だ」と述べています。

他者による統一が生むゆがみ

EUの統合に関して、ひとつの大きなキーワードがあります。それが、「他者による統治」です。

EUに参加した以上、身勝手な行動はできず、国民の世論をすぐに政治に反映させるのはむずかしくなります。イギリスを含めEUに反旗を翻している国にとって、いちばんひっかかっているのはここでしょう。

自分の国なのに、「他者によって統治」されているという感覚が強いからこそ、EUシステムがだんだんとゆがみを見せているように思えます。

EUの歴史は、改革の歴史です。1992年のマーストリヒト条約によって、欧州連合は誕生しました。そしてリスボン条約ではEUの理念を確立し、その後も同一通貨を用いること、国内や司法に関しても協力することなどが決まり、外交や安全保障などの分野でも協力するようになりました。

ですが、それはそもそも、可能だったのでしょうか。

統一は分離の前段階?

ものごとというのは、基本的には「はじまり」があれば「終わり」があるものです。「出会いと別れの季節」なんて言いますしね。

元も子もない言い方ですが、「EUは統一を目指したから、ヨーロッパが分離した」のだとも言えるのではないでしょうか。

イギリスの正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国です。イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドでは、それぞれ文化や考え方なども異なります。それが紆余曲折を経ながらも統一したわけですが、特にスコットランドでは根強い独立運動が続いていました。

わたしはスコットランドに行ったことがあるのですが、ロンドンと同じ国だとは思えませんでしたね。雰囲気から人々の生活、風景など、すべてが違いました。

イギリス全土では52%で離脱派が過半数を超えましたが、スコットランドでは約62%が残留を支持し、イギリス国内でも波紋を呼んでいます。

イギリスが「こっちはこっちでやる!」と意思表明した瞬間、スコットランドが「じゃあ俺たちも好きにさせろ!」という混乱っぷりです。

イギリスはEUの支配がイヤで離脱をめざし、スコットランドはイギリスの支配がイヤだけどEUのもとにはとどまりたい。なんだかよくわからないですね。

EUを襲う「民主主義の赤字」

ドイツの有力紙、フランクフルター・アルゲマイネでは、以下のように報じています。

市民が疎外され、国民の政治的容認が欠如しているなかで、世界最大の市場であるEUの民主的欠陥は、乗り越えることが可能なのだろうか。「なにか欠点が内在しているのではないか?」

EUの政治システムには、そもそも大きな欠陥がありあました。それは、「民主主義の赤字」という言葉で言い表されます。

日本では、より強く国民の意見を議会に反映するため、衆議院の優越が認められています。EUはどうかというと、直接選挙で議員が選ばれる欧州議会は、たいした権利を持っていません。各国の代表1名ずつによって成り立つ欧州委員会が大きな権力を持っています。

記事内の、「市民が疎外され」「国民の政治的容認が欠如」している理由ですね。

たしかに、いくつもの国がまとまっているわけですから、話し合いはその分ややこしくなります。直接選挙で選ばれた欧州議員は、それこそ千差万別の考え方をしているでしょうから、すでにある程度権力を持った代表たちが決めてしまった方が手っ取り早いのは当然です。

ですがそれは果たして、民主主義の姿勢として正しいのでしょうか。

記事中では、集権国家のようになる危険性に警鐘を鳴らしています。複数国家の集合体なわけですから、ある程度どこかの組織が権力を持っていないとなにも決まりません。たしかに仕方のないことにように思えます。

複合的な問題ではあるものの、結局のところイギリスは、「他者に統治されている」ことに我慢がいかなかったんでしょう。もともと島国で、大英国として一時代を築いたわけですから、「好きにやらせてくれ」という意識があったはずです。

イギリスに続こうと国民投票に向けて動いている国もまた、「主権を取り返したい」という気持ちによるものでしょう。

ヨーロッパ統一を目指していたら、いまになって離脱へ向けて動く国が出てくる。かと思ったら、スコットランドは自分たちだけでも残留したいという。

もしスコットランドだけで国民投票なんかやっちゃって、「イギリスから離脱、EU加盟」なんて結果になったりしたら、もう混乱どころじゃないですね。国の空中分解です。

国民主権とEUの民主主義の矛盾

EUは、ヨーロッパの平和と繁栄のために進化を続けました。

ドイツ連邦憲法裁判所で欧州法を担当しているペーター・フーバー氏は、イギリス国民投票の前日、「ドイツは主権を有している。最終的にドイツができることを決めるのは、ドイツの基本法(憲法)とドイツの国民のみである」と述べました。(記事参照)

偉い上詳しい人が言ってるんですから、建前としてはそうなんでしょう。ですが実際、ドイツのことをドイツが決められないのがEUというシステムです。ドイツもEUの決まりには従わないといけませんから。

EUもEUの参加国も、民主主義を掲げています。国民主権です。ですが現実はどうでしょう。

欧州市民から直接選出される欧州議会の議員は、たいした権力を持っていません。主権を持った国であるはずなのに、EUのルールに従わないといけません。

民主主義と謳ってはいるものの、欧州市民の声をEUの政治に反映されているかといえば、答えは「形式上はイエス、実際はノー」といったところでしょう。

「イギリスはイギリスでやる!」って言うし、スコットランドはスコットランドで「イングランドは関係ない!」とか言うし、ドイツは「みんなで仲良く」とか言ってひとり勝ち状態だし……。

これってどこらへんに落としどころがあるんでしょうか。あれ、もしかしてない? 民族の、国の誇りがかかっているわけですから、他者の統治が許せなくなった人々は、なにを言っても妥協しないでしょう。だって主権国家だもの。EUなんて関係ないもの、といった感じで。

さて、このままではEU、さらにはイギリスは空中分解してしまうわけですが、それはこれからのイギリスの行く末にかかっているでしょう。正直言えば、そこそこうまくいけば、「後に続け!」となるでしょうし、泥船で泥沼にはまったりしたら、ほかの参加国はEUにとどまるでしょう。

イギリス、スコットランド、双方のこれからの話し合い、そして折り合いがどこへ向かうのか、まだまだこのニュースは世間をにぎわすようです。

参考:
自国以外が決定権をもっていること(Frankfurter Allgemeine Zeitung
スコットランドという民族の誇り(Frankfurter Allgemeine Zeitung

この記事へのコメント 4

  • まいける のプロフィール写真 まいける より:

    それぞれの国が政治体制を持ちながらEUに政治的なルールが存在するのはやはり矛盾ですね。政治体制を統合できない以上、経済統合以上のことはできないですね。でも欧州の知恵が発揮されるのは、問題が出てきてからでしょう。遠い昔から欧州各国は、喧嘩しながら仲良くしてきたのですから。アジアの国にはなかなか理解できない欧州のメカニズムが機能し始めることに期待したいですね。

    5
  • Zenn のプロフィール写真 Zenn より:

    ヨーロッパの空気を読むのは日本人には難しいでしょうね。こういった繰り返される歴史を考えるとき、私は自動車の4ストロークエンジンのサイクル(吸入、圧縮、爆発、排気)を思い浮かべて、いまどこにいるのか?次は何が起こるのかと考えます。回転系の単位がRPM(Revolution Per Minute)なのも、なにかを象徴(暗示)している気がします。

    2
  • あい。 のプロフィール写真 あい。 より:

    どんなに精巧な機械でも、長い時間を経たら少しずつですが狂いが生じてきます。
    少しずつの微妙な狂いが、目に見えてきた感じです。
    ヨーロッパの国という部品で作られた、EU。 どういった修理をすれば、良いのでしょうね。。。

    1
  • 直人 東條 のプロフィール写真 直人 より:

    EUがブラック企業みたいなところじゃなきゃいいのですが。

    0

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雨宮 紫苑 のプロフィール写真
ドイツでジャーナリズムを学んでいます。ライターとして生計を立てるべく、目下奮闘中。ドイツ発のニュースや海外生活情報などをお届けしています。


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