ドイツの最低賃金制度導入による影響とは?


最低賃金は失業者を増やす ― これは、専門家によって度々警告されてきたことだ。ドイツでの最低賃金導入からもうすぐ一年。労働市場の状況は、むしろ上向きである。失業率は過去24年間で最も低い値となっている。

263万3000人という数字は、1991年以降最も低い値である。恐れられていたようなことは何も起きていない。専門家の計算違いだったのだろうか?それとも、その結果が明らかになるのはまだまだこれからなのだろうか?

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失業者の数は減っている

様々な研究機関や団体が、最低賃金によって脅かされる職場の数を見積もっていた。900,000人の労働者が職を追われるとの予測もあった。最低賃金を支持する者の中にも、人々の仕事に及ぼす影響という点に関しては慎重になる人が少なくなかった。

しかし、一年前と比べて、現在就業者の数は減るどころかあきらかに増加している。さらに、各企業や公的機関は、店員やトラック運転手、守衛、機械技師、ソーシャルワーカーを引き続き探している。労働人材への需要を調べている労働市場調査によると、この11月、2008年の調査開始以来の最高値を達成したという。つまり、雇用者側は可能であればより多くの働き手を雇う、ということである。

目に見えて減ったミニジョブの数

最低賃金を導入したことで失業率が減った、と考えるものもいる。多くの低所得者が使えるお金が増えたことで、モノやサービスへの需要が高まり、企業も採用者数を増やしている、という論理である。これだけを聞くと納得してしまいそうだが、実際には最低賃金の導入前からこの傾向は始まっていた。雇用の数や総所得などの統計やグラフを見ると、ある事が分かる。最低賃金が導入された時点で、何一つ変化は見られないのである。それまで通り、緩やかに上昇しているだけなのだ。

ただし、ミニジョブ(月収450ユーロ以下)の数だけは明らかに減っている。ミニジョブの時給は元々とくに低かったため、ここで失業が増えるだろうと専門家たちも見込んでいた。この予測自体は間違っていなかったが、他のところで職を見つける人の増加がミニジョブの減少を上回ったようである。この傾向は、飲食業や小売業などの低賃金で知られる業界の中ですら見られる。

しかし、専門家たちは警告を取り下げようとはしていない。最低賃金が及ぼす影響が明らかになるまでには、まだ時間がかかるという。実際、いまだに暫定的な規定が適用されている。これによると、例えば新聞配達や農作物収穫などの仕事に関しては、来年末まで8,50ユーロ以下の時給での雇用が可能である。とくに導入当初は、なんとか最低賃金のルールの網をくぐろうと試みる雇用者が少なくなかった。

適正な最低賃金の設定価格を求めて

また、好景気が最低賃金に重なった。低利子、ユーロ安、石油代の落ち込み。これらすべてが、最低賃金の本当の効果を見えにくくしている。また、流れ込んできた難民の住居や語学教室のために国が出すお金も、一時的な興奮剤の働きをしている。

しかしこれらすべてを含めても、導入前から専門家たちによる警告がなされてきたほどの悪影響を、最低賃金が及ぼしたとは思えない。

労働市場の変化についてもっと納得のゆく説明がある。最低賃金の設定価格が適正であったため、失業者を増やす要因にならずに済んだ、というものである。

多くの専門家の意見によると、国が定めた最低賃金に関して、誰かの仕事を犠牲にすることなく設定価格を上げる余地はまだある。問題は、どこまで増やすことができるのか、実施してみないことには見当がつかないという点である。どんな結果をもたらすか、常に手探りで進むしかない。これも、最低賃金が導入される前の予測に大きなばらつきがあった理由だ。時給8,50ユーロという設定は、当たりだったといえよう。

最低賃金と難民問題

さらに、最低賃金によって守られている労働市場が、難民問題の克服に一役買うことも考えられる。現在シリアやイラク、ソマリアからドイツにやってくる難民の多くは労働能力が低い。またドイツ語ができないという理由だけを見ても、いわゆる単純労働に就かざるをえない。ドイツでは、むしろ数少ない仕事をするしかない。だからといって、最低賃金の価格を下げる、または難民は対象外とする、といった処置は政治的な観点から見てほぼ不可能である。

どちらにしても最優先させるべき課題は、ドイツに滞在する難民に向け、できるだけ早急に語学教室を提供することだろう。さらに専門家によると、難民を長期失業者と同じ扱いにすべきだという。現状では、難民に最低賃金が適用されるのは就業後6カ月が過ぎてからだ。このいわゆる待期期間を、専門家たちは12カ月にまで延長することを望んでいる。

その一方で、ある決まった実習や職業訓練は最低賃金の例外とみなすべきだという声もある。ジョブセンターは、すでに存在する補助金の力で社会進出を後押しすることもできる。また、難民が派遣会社で働くことを禁止するルールの緩和を求める専門家もいる。

最低賃金のこれから

最低賃金が導入されることで起こりうると考えられていた、失業率の増加は今のところ見られない。むしろ、失業者の数は減っている。現時点では、この政策は成功を収めているといえよう。

ただ、成功したと喜ぶにはまだ時期尚早だ。データに表れているように、最低賃金のおかげで失業率が低下したわけではないのである。大量に流れ込んだ難民が職を探し始めるため、2016年には失業者の数が増える可能性もある。また、最低賃金の価格を上げようとする動きもあり、その結果何が起こるのか予想するのは難しい。

現時点では、取り上げるべき悪影響を及ぼしていない最低賃金。しかし、特筆すべき成果もあげていないという事実を忘れてはいけない。難民問題を含め、今後も様々な変化があるだろう。人件費を抑えたい中小企業や家族経営の飲食店などは社員の数を減らさざるをえなくなる。今後の動き次第では、最低賃金のせいで路頭にさまよう人の数が増えるかもしれないのだ。ドイツで働く者として、常に動向に目を光らせておくべきテーマの一つがこの“最低賃金”であろう。

参考記事:
Doch kein Jobkiller

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tomo のプロフィール写真
1992年高知県生まれ。愛知県立大学外国語学部を卒業し、専攻したドイツ語を生かしたいと思い到り、渡独。 現在ドイツのフランクフルトに在住、スポーツ関係のベンチャー企業でのインターンシップに参加している。翻訳者として一語一語丁寧に、ライターとして読者に新たな気づきを与えることを心がけ、執筆活動に取り組む。


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