日独租税条約改定!配当源泉税廃止で今やるべきことは?

2015年12月17日に日独租税条約の改定に関する署名が行われたということが財務省のホームページで報告されました。

今回は、その中でも特に関心が高いであろう「配当源泉税の撤廃(投資所得に対する源泉地国課税の減免)」について、出来るだけ平易に解説してみたいと思います。概念的なものを説明に徹するため、枝葉の部分については端折って説明している点にご了承ください。

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現行租税条約の配当源泉税課税に関する規定

改定後の租税条約についての説明に入る前に、まずは現行の租税条約について簡単におさらいしておこうかと思います。

配当源泉税の租税条約の話を少し複雑にしているのは、その規定が双方の国に適用されるのか、また一方の国のみに適用されるのか、という点で取り扱いが異なる場合があるということです。

改定前の日独租税条約においては、この点において日本とドイツで取り扱いが異なっていました。

日本⇒ドイツへの配当源泉税

日本に存在するドイツ資本の子会社が、ドイツの親会社に配当を行うときには、日本の国内法に基づくと、上場株式でない限り20.42%(所得税+復興特別所得税)の源泉税が課せられてしまいます。

しかし、現行の日独租税条約においては、日本に存在するドイツ資本の子会社・関連会社(持株割合25%以上、保有期間12ヵ月以上)が、ドイツの親会社に配当を行う場合には、配当源泉税が10%にまで軽減されていました。

ドイツ⇒日本への配当源泉税

一方、ドイツに存在する日系資本の子会社が、日本の親会社に配当を行うときは、ドイツ税法における15%の配当源泉税率が適用され、現行の租税条約において軽減規定はありませんでした。

このため、イギリスやオランダと行ったEU諸国と比較して、ドイツはそもそも実効税率が高いことに加え、配当源泉税も課されてしまうため、経済・産業構造の類似性からEUの中でも日系企業の進出先として人気の高いにも関わらず、配当税制が足かせとなってドイツ投資が敬遠されていた一因ともなっていたのです。

(図①)イギリス・オランダ・ドイツの法定実効税率と配当源泉税(対日本)の比較
法人税と源泉税比較
参考:世界の法定実効税率ランキング 2015年(世界経済のネタ帳)

数値例で見るドイツ投資の税務デメリット

では、具体的にドイツで現地法人を作った場合と、イギリスに現地法人を置いた場合の簡単な比較例を見てみましょう。

どちらの例も、ドイツとイギリスそれぞれの現地法人で、税引前で100の利益が出たと仮定して、その利益をすべて日本に配当として吸い上げるという状況を想定しています。

(図②)ドイツとイギリスで現地法人における配当課税例
ドイツ投資のデメリット

イギリスのケース

イギリスの現地法人には、イギリス国内での法人税等(20%)が課されるため、税引後の利益は80となってしまいます。

しかし、イギリスから日本への配当に関しては、子会社(50%以上、6ヶ月以上所有)であれば配当源泉税は免税となるため、イギリス現地法人で発生した税引後利益80をそのまま日本に吸い上げることができます。

ドイツのケース

一方、ドイツのケースでは、イギリスより法定実効税率30%と高いため、現地法人の税引後利益の段階で10の差(80-70)がついています。

さらに、ドイツ現地法人から日本へ配当しようとすると、15%の配当源泉税が課されることから、日本の親会社が吸い上げることのできる配当収入は60のみとなってしまいます。

このような状況は、企業が頑張って稼いだ利益に対して、法人税+配当源泉税という税金が二度も課されており、徴税制度上好ましくない国際間での二重課税の状況を作り出してしまっているのです。

その結果、他のEU諸国を経由して源泉税回避を企む会社が。。

EU内では、「資本移動の自由」の名の下に、配当等の資本取引について自由に行えることとなっています。

したがって、EU親子会社間での配当については、原則的に子会社に対して源泉税を課さず、親会社側での受取配当に対しても益金不算入と取り扱うことで、実質的に税金がかからないような仕組みが作られています。

この仕組みに目をつけたEU領域外の企業は、ドイツでの源泉配当税を回避するために、きっとこう思うはずです。。。

「EU内で租税条約上、配当源泉税が免税となっている国に持株会社を設立し、その会社から配当を吸い上げればいいのではないか?」

(図③)イギリスでの持株会社を使った源泉税回避スキーム例

中間持ち株会社を使って源泉税回避
備考:簡便化のため、外国子会社配当については全額益金不算入としている。

上記のようなスキームを使えば、ドイツで配当源泉税を徴収されることなく、日本の親会社に利益を還流することが可能となります。

こうした行為は、トリーティー・ショッピング(条約濫用)と呼ばれ、近年規制は厳しくなってきているものの、まだまだ抜け穴は多くあるのも現実です。

新日独租税条約による配当源泉税の影響。ドイツ・日本政府の思惑は?

とは言え、このような状況はドイツ・日本政府ともに望ましいものではありません。

日本政府としては、ドイツで稼いだお金を日本に還流できる環境を整えてあげることで、日系企業のドイツ進出を促進させたいと考えています。

一方ドイツ政府としても、日系企業の事業の中心がドイツにあるにもかかわらず、イギリスやオランダのような国に統括会社を置くことを選択する企業が多く、その結果、日系企業の投資誘致の機会を逸してしまっているのです。

このように、国際的二重課税と租税回避行為を防止し、日独双方間への投資を促進するため、今回の租税条約改定に配当源泉税撤廃が織り込まれたという経緯があるのです。

配当源泉税廃止により日系企業の取るべきアクションは?

ドイツでの配当源泉税が廃止されたことにより、日系企業は実施すべきアクションには様々なものが考えられます。

資本配分の見直し

今まで源泉税の影響から、日本への配当を見合わせていた日系企業は数多くあることかと思います。

配当源泉税廃止のタイミングで、ドイツや日本、さらにはグループ全体での資本配分を見直す必要があるでしょう。

欧州組織再編

特に事業の中心がドイツにあるにも関わらず、配当源泉税の影響を回避するためにイギリスやオランダに拠点を置いていた企業は、組織再編を検討することで税務メリットを享受できる可能性があります。

また、EU全域にわたる節税対策を行っていた企業は、今回の日独租税条約改定を元に、再度税務戦略を練り直す必要があります。

ドイツ投資の検討

配当源泉税の廃止のみならず、今回の租税条約改定は日独双方間の投資促進・経済交流を目的としています。

したがって、ドイツへの投資への税務面での障壁が取り除かれたことにより、今一度ドイツへの新規投資を検討する機会になるかもしれません。

いつから適用?

租税条約改定の署名は2015年12月17日に行われましたが、配当源泉税の軽減はいつから適用されるのでしょうか。

財務省のホームページによると、今後の手続きとして、「両国内での手続きが経た後、その完了を確認する通告後、遅い方の通告後30日が経過したときに効力が生じる」と記載がなされています。

さらに、ドイツにおける源泉徴収税については、「効力発生後の翌年1月1日以後に支払われる租税」から適用されるということなので、2016年11月までに両国内での手続きが完了し、双方相手国に通告が完了した場合は、早くて2017年1月1日以後に支払われる配当から源泉税が軽減されることとなります。

まとめ

租税条約の改定については、ここ数年ずっと議論がなされており、合意が先延ばしになったこともあって、今か今かと待ち望んでいた日系企業の担当者の方も多いのではないかと思います。

EUへの進出企業として常に1,2位を争うドイツとの租税条約改定により、税務担当者のみならず、EU全域の企業を巻き込んだ積極的な議論が必要となってくるでしょう。

本稿がその議論の一助になれば幸いです。事実誤認や見解の違いなどがありましたら、ぜひご指摘して頂ければと思います。なお、本稿は筆者の私見であり、2016年1月1日時点での税法等に基づいており、実際の判断につきましては専門家にご紹介頂ければと思います。

この記事へのコメント 4

  • Samurai Tiger のプロフィール写真 Samurai Tiger より:

    2017年から配当源泉税が実質ゼロになるので、今年中に動き出す日系企業も出てくるだろう。

    相互協議における仲裁制度の導入も大きなポイント。移転価格でもめたりしたときに、泣き寝入りせずにとことん決着つけるようにできるのは極めてフェアな改正。

    5
  • Sine のプロフィール写真 Sine より:

    国際的二重課税と租税回避行為を防止し、日独双方間への投資を促進するため、租税条約改定に配当源泉税撤廃がされることによって、さらに日本の企業がドイツに進出しやすくなり、ドイツの企業も日本に進出しやすくなると思います。
    しかし、日本とドイツは製造業においてはライバルですから、日本製のものをドイツ人が買ってくれるかどうかは疑問です。
    車に関しても、ドイツ人は、裕福な家庭ならば、国産(ドイツ車)を好んで買いますし、そうではない人が外車を買いますから。

    4
  • 櫻井 順平 のプロフィール写真 櫻井 より:

    Brexitと日独租税条約改正のダブルパンチで、欧州に進出したい日系企業は、イギリスではなくドイツを選択肢とする可能性が高まるか。

    2
  • ゆうちゃん のプロフィール写真 ゆうちゃん より:

    実際にどういう風に影響が出るのか分かりませんが、きちんと理解しておかなきゃなと思い、ためになる記事でした。

    0

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