イギリスが直接民主制の先進国スイスから学べること

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国民投票という響きがいいシステム

ドイツメディアでは、毎日のように「Brexit」についての記事が更新されています。Britain+exitを組み合わせた造語です。EUももちろんですが、イギリス国内は混乱状態です。正直言えば、わたしは「国民投票なんかやっちゃったから……」と思っています。

EUにとどまるかを、民主主義らしく国民に問う。その考えは素晴らしいです。ですが、国民投票をやっちゃうと、その結果を尊重する必要も出てきます。いくら国にとって損でも、国民が望んだ以上無視できなくなるんですね。

今回の場合、過半数がEUの離脱を支持しました。といっても、かなりの僅差。それでも離脱派が「勝った」わけですから、残留派が48%いようが、離脱する意思を尊重しなくてはいけません。多数決の原理です。

国民投票は、民主主義らしい良い響きを持っています。ですがイギリスの結果を見ると、「国民投票すればいいわけではない」という側面も見えてきます。また、「国民投票するならちゃんとしないと痛い目に遭う」ということも言えます。

イギリスはスイスから学ぶべきだった

スイスは、直接民主制をとっています。それ自体は珍しいことではありませんが、直接民主制を採用している国のなかでも成熟していることから、多くの国に注目されています。

イギリスは間接民主主義です。いつもは選挙によって国民の意見を聞いていたわけですが、今回はてっとり早く、かつわかりやすい国民投票を行いました。国民投票のメリットは、率直な国民の意見を聞くことができるということです。

ですが、もともと直接民主制の土壌が育っておらず、間接的民主主義システムのイギリス。それなのに、急に国民選挙なんかやってしまって、結果はかなりの僅差。圧倒的にどちらかに傾いていたらやりやすかったんでしょうが、52%対48%です。

僅差とはいえ、過半数以上が離脱を支持してしまいました。その結果を受けたら、国としては残留とは言えません。沽券に関わります。

後の祭りではありますが、国の命運がかかっているテーマで国民投票を行うなら、もうちょっとスイスを見習ってからの方がよかったでしょう。

直接民主制の先進国スイス

スイスは直接民主制をとっていて、その政治システムは成熟していると言われています。もちろん、いいことばかりではありません。ですがイギリスは、国民投票を行う前に、直接民主制を確立しているスイスから学ぶべきだったのです。

スイスの直接民主制で最も重要な制度は、イニシアチブと任意のレファレンダム。(略)

スイスの有権者は、イニシアチブにより連邦憲法改正を提案する権利がある。連邦レベルのイニシアチブは、18ヶ月以内に有権者10万人分以上の有効 署名を集め、連邦内閣事務局(Bundeskanzlei/ Chancellerie fédérale)に提出することで成立。

成立したイニシアチブは、連邦議会で協議される。連邦議会は、法案を承認、否決または対案を提出することができる。どの場合でも、国民投票に採決がかけられる。

イニシアチブが可決されるためには、投票者の過半数および州の過半数の賛成票が必要。

(随意の)レファレンダムは、連邦議会を通過した法律の可否を国民が最終的に判断する権利。

連邦議会で新しく採決された法律に反対する有権者は、連邦議会が同 法律の承認を公表した後100日以内に5万人分の有効署名を集め、連邦内閣事務局に提出すると、連邦レベルの国民投票に持ち込める。
連邦議会が憲法改正案を承認した場合は、強制的レファレンダムによりその憲法改正案が義務的に国民投票にかけられる。

随意のレファレンダムが成立するためには、投票者の過半数の賛成票が必要。強制レファレンダムでは投票者と州の過半数の賛成票が必要。
参考記事

スイスの国民は、大きな政治参加力を持っています。新しい州の予算案から、アルプス山脈の保護、ベーシックインカムや犯罪を犯した外国人への対処など、国民が直接意思表示をできる分野は多岐にわたります。

間接民主主義だと、自分の意思に近い政党や議員候補者を支持しますが、直接民主制を取り入れているスイスでは、ひとつの事柄に対して自分の意見をより強く反映させることができます。

スイスでは、子どもたちは成人する前に高い水準の政治教育を受けます。そして政治に参加できる年齢になったとき、すでに「一票の重み」をすでに理解しているのです。

イギリスの国民投票はスイスレベルだったのか

スイスでは、直接民主制の土壌が育てられています。国民は政治に真摯に参加し、その結果を受け止めます。自分の意見をしっかりと持ち、それを投票で表明して政治に反映させる。そういう考え方が根付いています。

直接民主制は、その背景があるからこそ成り立つ制度です。

ですがイギリスはどうでしょうか。イギリスの政治制度は立憲君主制。議院内閣制をとっています。直接国民の意見を聞く、というよりは、国民が選んだ代表者が政治を進める、というやり方ですね。

いままでは間接的に国民に意見を聞いていたのに、突然イギリスの命運を直接国民に聞いたわけです。いきなり日本が、「TPP参加について国民投票します!」みたいなことですよね。「ええ!?」ってなりませんか?

いままで国民投票になれていなかった国民がいきなり投票するとして、その結果はしっかりとした知識や意識に基づいたものになるのでしょうか。

記事では、「直接民主制には練習と節度が必要だ」と書かれています。

国民に直接意見を聞くわけですから、政治に参加する自意識や知識があることが前提となります。そして多角的に考え、国のために投票するという節度が必要です。

イギリスにその2つの素養があったかと言われれば、「うーん……」と思います。

安易な国民投票は痛い目を見るだけ

もちろん、国民に直接意見を聞く、という発想は素晴らしいです。ですが、物事はなんでも、実行する前の準備というものが必要です。

日本でTPP参加について国民選挙したところで、いったいどれだけの人がTPPについて考え、理解し、投票するのでしょう。

もちろん、直接民主制という制度が完全無欠なわけではありません。相応のデメリットがあります。ですが国民投票という手段をとるのであれば、直接民主制として発達しているスイスを見習うべきでした。なぜスイスでは国民投票がうまく機能しているか理解してから実行すればまたちがったのかもしれません。完全な勇み足です。

民主主義国家として、国民が主権を持ち、政治を進める。そうあるべきですし、そうでなくてはいけません。ですが今回の国民投票は、国民に投げっぱなしという印象を持たざるを得ません。

キャメロン首相も辞任表明して、EU離脱を訴えた英国独立党の党首が辞任、前ロンドン市長も選挙不出馬を表明……。完全なるなすりつけ合いです。慣れない国民選挙を行ったら、僅差でEU離脱派が勝利――。イギリスの混乱は、まだまだ続きそうです。

参考URL: Süddeutsche Zeitung

この記事へのコメント 2

  • 櫻井 順平 のプロフィール写真 櫻井 順平 より:

    国民投票の難しさについて、投票する国民にも相応のリテラシーが必要とのこと。スイスの国民が平均して高い教育水準を維持しているというのは、必然性からきたものなのかもしれないですね。

    1
  • 直人 東條 のプロフィール写真 直人 より:

    EUと離脱派の対立は深刻にならないといいですね。

    0

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雨宮 紫苑 のプロフィール写真
ドイツでジャーナリズムを学んでいます。ライターとして生計を立てるべく、目下奮闘中。ドイツ発のニュースや海外生活情報などをお届けしています。


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